さよ ひな pixiv。 二人の思い出

さよひな

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Roseliaの練習後特有の、気持ちのいい疲労と高揚感を、ため息と一緒に吐き出して。 ギターケースを一度背負い直してから、ドアノブを握った。 まだ見慣れないドアに、まだ温かくならない季節。 開けないわけには、いかない。 ノブを捻って、いつもよりも重く感じる金属の板を、こちらに引く。 「あっ、お姉ちゃん! おかえり!」 ドアが開き切る前に、聞き飽きた声が出迎えた。 「……ただいま」 気分の重さのままに声を返すけれど、弾むような足取りで玄関へやってきた日菜は、眩しいくらいの笑顔を向けてきた。 「練習おつかれさまっ」 「…………」 眩しい。 返事をしないでいると、少し息が詰まったような感覚になる。 けれど構わず、私は光から逃げるように足元を向いた。 光から遠ざかったからか、足元は目眩がかかったように感じる。 靴を脱いで、靴箱へしまって。 部屋へ向かおうと顔を上げると、目の前に日菜の顔。 下がった眉。 ばつの悪そうな声。 「……夕ご飯、作っておいたよ」 「っ……今日は私の番だったでしょ」 棘混じりの声を投げかける。 気に入らない。 何度目かの約束破りも、いつも通り遅くなった私も、何となく、こう言われるのを予感していた私も。 何より、申し訳なさそうなその顔が。 それは、その通りだ。 私はいつものように、自主練をして、遅くなった。 今から作るとなると確かに、いつもの時間よりも大分遅くなってしまうだろう。 まだここに越してきて日が浅く、もちろん自炊にだって慣れてない身だ。 けど、と、頭の中を思いが掠った。 「……」 取られた、と思ってしまう。 そう、感じてしまう。 何度も味わった苦いものが、じわり、と舌に滲む。 違う違う違う。 日菜は、私が一緒の部屋を借りるのを許可した時と、同じような顔をしていた。 私のために、作ってくれたんだから。 お礼を言うのが、正しいはず。 俯いた時に見えていた目眩は、まだ続いていた。 「……あ、……えと」 戸惑った彼女の横を抜けて、私は自室へ逃げ込んだ。 ギターケースをベッドに立て掛けてすぐ、目眩に従って掛け布団の上から倒れ込む。 全身を襲う疲労は、驚くほど不快で。 先程まで思うように動かしていた指が、急に不自由になったように感じた。 「…………」 今日は、日菜だって、練習だった。 今日は、じゃない。 今日も。 月曜も。 この前も、その前も。 私がスタジオに残って自主練をしてる間も、Roseliaでライブ前の仕上げをしている間も。 自主練をする時もあるそうだけど。 私と練習が被った時は、いつだって日菜は先に帰っている。 私がギターを弾いている間に、料理をして。 「…………」 それなのに。 日菜はいつでも、完璧に弾きこなしてみせる。 私が努力して弾けるようになったフレーズを、なにそれ、るんっとくるねってふざけた声と一緒に、真似して弾いてみせる。 私の代わりに、料理だってしているのに。 お姉ちゃん、大丈夫? という言葉に、私は小さく息を吐いた。 目眩は取れない。 あまり、大丈夫では無さそうだ。 「……」 返事をしようと思っても、億劫で声が出ない。 何だか、息が熱っぽい気もする。 そうか。 道理で、いつものことが、こんなに苦しく胸を苛むわけだ。 「…………風邪、引いたみたい」 がちゃ、と開いたドアの向こうにそう声を掛けると、少し驚いた声と、慌てて動く物音が続いて……私は、目眩の向こうに意識を落とした。 [newpage] ひなちゃんはすごいねぇ。 おばあさまが、いもうとをほめている。 さよちゃんは、どうだったの? わたしは、……。 そこで、いうのがこわくなって、とまってしまう。 そうしたら、おばあさまは、こまったかおになる。 それでわらう、へんなかおで、そう……、って、それだけ、いう。 ひなちゃんは、すぐできちゃったみたいだけどねぇ……。 お姉ちゃん……。 日菜が、私の顔をじっと見て、悲しそうな、苦しそうな顔をしている。 苦しいのは、私なのに。 私は、頑張る。 色々頑張った。 でも全部ダメだった。 私は、頑張った自分を褒めてほしかった。 けどいつだって、頑張ったのを知ってるのは私だけだった。 そして私ですら、私を褒められなかった。 私がどれだけ頑張っても、気付いたら前に日菜がいる。 あっ、そういやさ、紗夜って日菜に教えてもらわないの? 勉強。 そうだよね、日菜の説明じゃあね~。 もー、いきなり怖い声出すからびっくりしちゃったよ。 私には趣味がない。 何をしても、何をやっても、妹に追い抜かれてしまう。 余った時間を潰すような、そんな勿体無い真似、決してできない。 私はあの子の前に行かなくちゃいけない。 立ち止まってなんていられない。 無理だって分かってるけど。 きっと敵わないって気付いてるけど。 そうじゃないと、氷川紗夜は、要らなくなってしまう。 私は探す。 私が、私でいられる道を。 目眩がするような間、私はギターを弾いてきた。 それなのに、日菜は、料理をしている。 ダメだったら。 前に行けないならば。 私は、どこにも、誰にも、必要とされなくなってしまうから。 日菜に勝つためだけに、愛想も無駄も削ぎ落としてきた私を、必要としてくれる人はいない。 同じ場所にいれば、並び立ってしまえば、誰もが日菜を選んでしまう。 私は、……私は、誰にも必要とされていない。 誰にも。 [newpage] 「お姉ちゃんっ……!」 は、と目を覚ます。 全身にびっしょりと汗の感覚。 そして、濡れた頬に、ぽたりと水滴の垂れる感覚に、暗い目の前。 日菜が、私を覗き込んで、泣いている。 「お姉ちゃん……、っ……」 「……あ、……」 声を出そうとすると、喉がすごく掠れていた。 何か言っていた気もする。 けれど、思い出せない。 がんがんと大きな音が鳴り響いて、日菜の顔がぐるぐると回り始める。 よかった……お姉ちゃん、魘されてたよ、という日菜の遠い声。 何か言おうと思ったけど、何も言えなくて、私は「ごめん」とだけ呟いて目を閉じた。 けれど、寝たいとは思わなかった。 寝たらきっと、とても怖い思いをする。 この異常なくらいの心細さの原因になった悪夢が、また私を襲う。 何かを言おうとした。 何か、大変なことを。 けど私は、それを飲み込んで、代わりに掠れた声で言った。 しぃん、と部屋の静寂が聞こえて、一緒にがんがんと音が鳴り響く、妙な心地。 私は必要とされていない。 どこからかそんな声がした。 お母さんが、後ろにいた。 けど何も言ってくれない。 私は必要とされていない。 要らない。 そんな言葉だけが、ひたすら頭の中をぐるぐると回り始める。 息が詰まって、鼓動が早くなった。 たった今、私は悪夢に魘されていたのだ。 ふらつきながら彼女に凭れ掛かり、私はみず、と呟いた。 「大丈夫、自分で飲める?」 「っ、」 自分で。 心臓がぎゅ、と縮まる感覚。 「大丈夫よ……」 コップを貰って、震える手で受け取った。 絶対に、絶対に落としてやるものか。 ぎりぎりと力を篭めて、口元へ運んだ。 水を飲むと、少し、意識がはっきりとした。 目眩が少し収まった代わりに、頭がずきずきと痛んで、私は空のコップを布団の上に落とした。 「お姉ちゃん!?」 「……」 あたま、いたい。 それだけ呟くのが精一杯だった。 またも駆け出そうとする日菜。 いなくなるっ……。 急に怖くなって、彼女の裾を掴んだ。 全く力の入らない声で、どうにか、それだけを言った。 日菜のしゃがみ込む気配がした。 「……うん」 そっと、手を取られる。 「…………」 日菜が手を握ってくれてる。 「大丈夫だよ、」 お姉ちゃん、という言葉に、心がす、と安らかになる。 私はまたも落ちていきながら、今度はその先が、お日様に綿を透かしたように、温かくて、ふんわりしているのを感じていた。 [newpage] お姉ちゃん。 お姉ちゃん。 お姉ちゃん。 柔らかな日菜の声に、太陽が輝いている。 私は温かい心地に包まれながら、けれど、それに飲まれてしまいたくない、と少しだけ感じていた。 けれど、どれだけ抗っても……心の一部だけが、どれだけ嫌がっても、私の芯はあの子に掴まれてしまっていた。 お姉ちゃん。 弾むような声に。 お姉ちゃん。 伺うような声に。 お姉ちゃん。 縋るような声に。 私の欲しかったものを、見出して。 日菜は。 日菜だけは、私を必要としてくれる。 日菜が、私の全部を取ってしまうのに。 日菜の言葉で、私は安心してしまう。 私は、ここにいても良いんだと。 彼女の傍が、私の居場所になるんだと。 抗えないと分かっていても。 敵わないと知っていても。 お姉ちゃん、と私を呼ぶ声に。 その声に心を預けてしまったら、私は、今度こそ、私でいられなくなる。 私の何もかもが、あの子に取られてしまう。 そう、ならなければいいのに。 抗わなくてもいいなら。 あの子に、全てを預けてしまっても良いのなら。 これほど、幸せなことも無いのに。 あの子が私を必要としているように。 私もまた、……。 私が、私だけの居場所を、私を必要としてくれる場所を、見つけたなら。 日菜を突き放さなくても、日菜に負けても、私が良いって言ってくれる、そんな居場所があったなら。 私はきっと、その時こそ、日菜と向き合えるだろう。 それはきっと、もうすぐだ。 起きたら私は忘れてしまっているだろう。 けれど、私には日菜が必要で、私は段々とそれに気付きつつある。 私には、Roseliaがある。 感じている。 Roseliaの皆は、私を必要としてくれる。 あの場所は、日菜のものじゃない、私だけの場所。 だから、きっと、あと少し。 一緒に住んでも良いと言ったのは、その証。 後は私だけ。 私が、日菜に負けてしまう私を、愛せるようになったら。 私はその時こそ、日菜を、愛してあげられる。 そうしたら、きっと、日菜だって。 [newpage] 「…………」 ぼんやりと目を覚ます。 嘘のように頭が軽い。 肌寒い空気に、すぐ傍らの熱源。 見慣れた髪に、嗅ぎがいの無い匂い。 夜中、隣に居てくれたらしかった。 布団も被らずに、日菜は私の隣で横になって、手は繋いだままで。 本当に。 彼女の体にも布団を被せ、そっと距離を寄せて。 起こしてしまわないように。 心に満ちた温かい気持ちを、伝えるように。 彼女を一度だけ、抱き締めた。 いつか私が私を愛せた時。 そうしたら、今度は、声にして。 ありがとう、日菜。

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#1 【さよひな】私を

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Side 紗夜---------------------- 「もう秋ね・・・」 紅葉が始まり空気もどこか澄んできた。 私は今、ある精神病院に入院している。 あれは確か1,2か月くらい前だったか・・・。 私の入っているバンド。 Roseliaの練習終わり、今井さんや湊さん達と他愛のない会話をしていた時だった。 私が喋るとみんな段々と表情が暗くなってゆく。 私はとりあえず妹の話でもして少しでも場が和むような会話に変えようとした。 しかし私が話せば話すほど皆何故か顔を俯かせる。 家に帰ると今度はお母さんから「紗夜、病院に行きましょう」、と言われた。 「ど、どうしたのお母さん!私どこも悪くないわよ?」 何度も私は大丈夫と言ったがお母さんは聞く耳持たずでそのまま私は大きな精神病院に連れていかれた。 そこでは色々な質問をされた。 これに問題はありますか?や、あれはやっていますか?だの。 そしてそれからしばらくして私は入院することになった。 私はどうやら何かの精神病らしい。 でもそれが何かは全く教えてくれない。 ここでの生活は結構暇だ。 朝起きてご飯を食べて軽い運動して、たまに患者同士の話し合いのような物があるが私の場合はどんな病気かもろくにわからないのでとりあえず口を閉ざしあいづちをうつだけ。 そのあとはベッドでゴロゴロするだけ。 ギターの練習もできないしで、正直脱走でもしたいくらいこの生活にはうんざりしているわ。 でも唯一の楽しみが私にはある。 それは・・・ 「おねーちゃん」 窓を見ていると突然後ろから声を掛けられた。 「もう、いつの間に入ってきたのよ、日菜」 「えへへ~、おねーちゃんに早く会いたかったよー!」 この入院生活唯一の楽しみ。 それは日菜がお見舞いに来てくれることだ。 「ほら座って」 「ありがとー!」 近くにあった椅子を日菜のそばに寄せてあげると日菜はちょこんと座った。 「おねーちゃん、最近どう?」 「そうね、お医者さんも症状は少しずつではあるけど回復はしてきているって、きっと近いうちに退院するわよ」 「ほんと!?やったー、やっとおねーちゃん退院するのかー!」 「全く、まだ退院するとは決まってないわよ」 退院するかもというと日菜は両手を万歳してやったーと喜ぶ。 ほんとこういうところは高校生になっても変わらない。 「それより日菜、今日もお話聞かせてほしいわ」 「うん、いいよ!」 最近私は良く日菜の学校の事や身近な話を聞くのが好きだ。 日菜はコレがあって面白かったんだ!!っとうれしかった時の話や、今日こんなことがー・・・と少し落ち込んだような話をしてくれる。 私はこの日菜とのお話の時間が何より楽しい。 あと言葉がうまく出てこなくて必死にこうだよ!こうこうなんだよー!!と体で頑張って表現しようとしているところがかわいい。 「それでねー彩ちゃんそこのケーキ屋さんのケーキ千聖ちゃんに内緒で食べて怒られてたんだー!」 「ふふっ、丸山さんも白鷺さんも、相変わらずのようね」 「あ、そういえばおねーちゃん、実は私今日リサちーからおいしいフライドポテト売ってるお店があるって聞いたんだ!おねーちゃんも今度行こうよ!」 「あら、そうなの?なら退院したら二人で食べに行きましょうかね?」 「うん!約束だよ!!」 日菜との約束。 絶対に破れない。 にしてもフライドポテト、入院してから全く食べてなかったから久しぶりにすごく食べたくなる。 退院祝いに行くのもいいかしら。 そんな想像をしているとすごく退院が待ち遠しい。 「ねえ、おねーちゃん」 「ん、どうしたの日菜?」 突然日菜がうつむいてしまった。 私はまた何かやってしまったのだろうかと不安になってしまった。 「いやさ、こうしておねーちゃんとお話してて、私すごく幸せだなーって」 「日菜・・・」 実は私は入院する少し前まで日菜のことを避けていた。 理由は彼女の才能の嫉妬。 幼い頃からなんでもできる日菜と努力しないと何もできない私。 そんな関係がイヤになって中学生になってからは口も利かず、それどころか日菜に酷い罵倒をしたりと・・・。 本当に最低だった。 でも今は違う。 何故だろう。 丁度入院した時期くらいから日菜のそんなこと。 何もかもがどうでもよくなった。 ただそばに日菜がいてくれたらそれでいいと思うようになった。 もしかして入院の理由ってそれ・・? 「なんだか夢みたい、おねーちゃんがしっかり私のお話を聞いてくれて・・・」 「・・・・」 そう・・・私はこんなにも日菜を傷つけた。 でももうそんなことはしない。 「日菜、今まで、その・・・ごめんなさい。 私のくだらない嫉妬なんかで、あなたを傷つけて・・・・。 でももうあんなことはしないわ!お話だって、今後もいっぱい聞くわ!」 「うん・・・・ありがとうおねーちゃん!」 日菜は私の言葉を聞いた途端ぱぁっと笑顔になった。 やっぱりあなたにはその笑顔がすごく似合うわ。 「ねぇ日菜、もっといっぱいお話聞かせて?」 「うん、わかった!」 それからも私は日菜とお話をした。 日菜・・・本当にごめんなさい。 でもこれからはちゃんと私は貴方のお話を聞くわ。 どんな些細なことでも。 どんなに小さなことでも・・・。 だから 「おねーちゃん、久しぶりにお話でも・・・」 身を縮こませ私にそう言ってくる日菜。 私はなんて返したっけ・・・? 『おねーちゃん、ごめんね・・・・・・・・・』 Side リサ---------------------- アタシにはすごく仲のいい友達がいる。 高校生になってからできた友達で氷川日菜って言う。 実は私のいるバンド、Roseliaのギターである氷川紗夜の双子の妹。 でも姉妹だからと言って仲が良かったわけではなかったらしい。 ヒナは昔からなんでもできたらしい。 バレーもピアノも勉強も。 天才ってやつだった。 そしてヒナは人の気持ちを理解できないっていう厄介な性格で、よく『なんでできないのー?』なんて言って周りを困らせる。 もちろん本人はそんな事悪意を持って言っているわけではない。 むしろヒナは人より優しいとアタシは思う、なにかあったら声を掛けるし困った人がいればすぐに手を差し伸べるようないい子だ。 そしてそんなヒナが一番好きなモノ、いや人が姉の紗夜だった。 でも紗夜はヒナのその才能に幼いころから苦しめられていたらしい。 周りからはできないこできないこと言われ蔑まれていたらしい。 正直同情はしている。 かわいそうだとも思う。 でもまさかあんなことになるとは思わなかった。 ある日、ヒナが亡くなった。 死因は事故死だったらしい。 アタシはその知らせを聞かされた時、ウソかと思った。 またヒナのいたずらかと思った。 でも病院の霊安室で冷たく、顔に布をかぶらされた彼女を見たとき、これは現実なんだと感じた。 ヒナの遺体を見た後、ヒナのお母さんから事故の状況を説明してもらった。 まだヒナが亡くなったことを受け止め切れていないのにわざわざ辛い事をさせてもうしわけなかったが、どうしても知りたかった。 どうやらヒナは紗夜と何かあったらしく、それが理由で夜遅くに家を出て行ったらしい。 そしてその後、ヒナは交差点に突っ込んできたトラックにはねられて亡くなったらしい、ほぼ即死だって。 その数日後、ヒナのお葬式が行われた。 葬式は私達Roseliaのメンバーやパスパレの皆も出た。 彩は凄い泣いてたしあこも泣いてた、もちろんアタシも泣いた。 でもそこで気づけば良かったんだ。 たった一人、紗夜だけ泣いていないことに・・・ 葬儀が終わりまた日常に戻る・・・はずなんだ。 葬儀の数日後にRoseliaの練習があった、けどそこにまさかの紗夜が来ていた、まさか妹が亡くなって数日後、バンドの練習に来るなんて誰も思ってもみなかった。 みんなが紗夜に大丈夫?と聞く。 でも紗夜は「大丈夫ですよ?皆さんこそどうされたのですか?」なんて言う始末、いくら妹の事を嫉妬したりしていたにしろ、流石に亡くなって平然とするのはアタシも許せなかった。 その日の練習の帰り道に紗夜に正直に言った、「紗夜!ヒナの事なんとも思ってないの!?大切な妹じゃないの!!??」と、しかし紗夜から帰ってきた返答は、アタシ達の日常を壊した。 「日菜・・・?日菜がどうしたのですか?もしかして、今日学校で何かしましたか?」 「・・・・は?」 思考が一瞬止まった。 「さ、紗夜!?何言ってるの!ヒナはもう・・」 「すみません、あの子がまた今井さんに迷惑をかけてしまい、今日帰ってきたらちゃんと言っておきます」 紗夜はまるで、ヒナが今もまだいるように話していた。 「昨日も一緒にテレビ見よう!って言って聞かなかったですし、ほんとに日菜は・・・・」 紗夜は・・・・壊れてしまった。 ヒナが亡くなってどうでもいいなんて思ってたんじゃない、それどころか。 今もヒナが生きていると思っている。 いったいどうして・・・。 それから数日後、アタシは紗夜のお母さんに会いに行った。 理由は紗夜を病院に行かせるためだ。 紗夜はあの後からホントにおかしくなってしまった。 いつもヒナがいるように喋って、この前だって買い物に一緒に行くと「コレ、日菜が好きそうなキーホルダーね、あの子にプレゼントしようかしら」と言ったりと、やはりその奇行が目立つ。 紗夜の今後の社会生活のためにもやっぱり病院に行かせるしかないと思った。 そしてその話は紗夜のお母さんも納得してくれた。 それからしばらくして紗夜は大きな精神病院に入院が決まった。 精神科の先生の話では回復はしているもののいまだにヒナの幻覚症状があると言っていた。 今の段階では面会すらできない。 ねぇ紗夜、何があったの?どうしてこんな事になったの? でも皆待ってるよ、友希那も隣子もあこもアタシも・・・・ヒナも。 だから早く戻ってきて。

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さよコレ / りりぅむ さんのイラスト

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Roseliaの練習後特有の、気持ちのいい疲労と高揚感を、ため息と一緒に吐き出して。 ギターケースを一度背負い直してから、ドアノブを握った。 まだ見慣れないドアに、まだ温かくならない季節。 開けないわけには、いかない。 ノブを捻って、いつもよりも重く感じる金属の板を、こちらに引く。 「あっ、お姉ちゃん! おかえり!」 ドアが開き切る前に、聞き飽きた声が出迎えた。 「……ただいま」 気分の重さのままに声を返すけれど、弾むような足取りで玄関へやってきた日菜は、眩しいくらいの笑顔を向けてきた。 「練習おつかれさまっ」 「…………」 眩しい。 返事をしないでいると、少し息が詰まったような感覚になる。 けれど構わず、私は光から逃げるように足元を向いた。 光から遠ざかったからか、足元は目眩がかかったように感じる。 靴を脱いで、靴箱へしまって。 部屋へ向かおうと顔を上げると、目の前に日菜の顔。 下がった眉。 ばつの悪そうな声。 「……夕ご飯、作っておいたよ」 「っ……今日は私の番だったでしょ」 棘混じりの声を投げかける。 気に入らない。 何度目かの約束破りも、いつも通り遅くなった私も、何となく、こう言われるのを予感していた私も。 何より、申し訳なさそうなその顔が。 それは、その通りだ。 私はいつものように、自主練をして、遅くなった。 今から作るとなると確かに、いつもの時間よりも大分遅くなってしまうだろう。 まだここに越してきて日が浅く、もちろん自炊にだって慣れてない身だ。 けど、と、頭の中を思いが掠った。 「……」 取られた、と思ってしまう。 そう、感じてしまう。 何度も味わった苦いものが、じわり、と舌に滲む。 違う違う違う。 日菜は、私が一緒の部屋を借りるのを許可した時と、同じような顔をしていた。 私のために、作ってくれたんだから。 お礼を言うのが、正しいはず。 俯いた時に見えていた目眩は、まだ続いていた。 「……あ、……えと」 戸惑った彼女の横を抜けて、私は自室へ逃げ込んだ。 ギターケースをベッドに立て掛けてすぐ、目眩に従って掛け布団の上から倒れ込む。 全身を襲う疲労は、驚くほど不快で。 先程まで思うように動かしていた指が、急に不自由になったように感じた。 「…………」 今日は、日菜だって、練習だった。 今日は、じゃない。 今日も。 月曜も。 この前も、その前も。 私がスタジオに残って自主練をしてる間も、Roseliaでライブ前の仕上げをしている間も。 自主練をする時もあるそうだけど。 私と練習が被った時は、いつだって日菜は先に帰っている。 私がギターを弾いている間に、料理をして。 「…………」 それなのに。 日菜はいつでも、完璧に弾きこなしてみせる。 私が努力して弾けるようになったフレーズを、なにそれ、るんっとくるねってふざけた声と一緒に、真似して弾いてみせる。 私の代わりに、料理だってしているのに。 お姉ちゃん、大丈夫? という言葉に、私は小さく息を吐いた。 目眩は取れない。 あまり、大丈夫では無さそうだ。 「……」 返事をしようと思っても、億劫で声が出ない。 何だか、息が熱っぽい気もする。 そうか。 道理で、いつものことが、こんなに苦しく胸を苛むわけだ。 「…………風邪、引いたみたい」 がちゃ、と開いたドアの向こうにそう声を掛けると、少し驚いた声と、慌てて動く物音が続いて……私は、目眩の向こうに意識を落とした。 [newpage] ひなちゃんはすごいねぇ。 おばあさまが、いもうとをほめている。 さよちゃんは、どうだったの? わたしは、……。 そこで、いうのがこわくなって、とまってしまう。 そうしたら、おばあさまは、こまったかおになる。 それでわらう、へんなかおで、そう……、って、それだけ、いう。 ひなちゃんは、すぐできちゃったみたいだけどねぇ……。 お姉ちゃん……。 日菜が、私の顔をじっと見て、悲しそうな、苦しそうな顔をしている。 苦しいのは、私なのに。 私は、頑張る。 色々頑張った。 でも全部ダメだった。 私は、頑張った自分を褒めてほしかった。 けどいつだって、頑張ったのを知ってるのは私だけだった。 そして私ですら、私を褒められなかった。 私がどれだけ頑張っても、気付いたら前に日菜がいる。 あっ、そういやさ、紗夜って日菜に教えてもらわないの? 勉強。 そうだよね、日菜の説明じゃあね~。 もー、いきなり怖い声出すからびっくりしちゃったよ。 私には趣味がない。 何をしても、何をやっても、妹に追い抜かれてしまう。 余った時間を潰すような、そんな勿体無い真似、決してできない。 私はあの子の前に行かなくちゃいけない。 立ち止まってなんていられない。 無理だって分かってるけど。 きっと敵わないって気付いてるけど。 そうじゃないと、氷川紗夜は、要らなくなってしまう。 私は探す。 私が、私でいられる道を。 目眩がするような間、私はギターを弾いてきた。 それなのに、日菜は、料理をしている。 ダメだったら。 前に行けないならば。 私は、どこにも、誰にも、必要とされなくなってしまうから。 日菜に勝つためだけに、愛想も無駄も削ぎ落としてきた私を、必要としてくれる人はいない。 同じ場所にいれば、並び立ってしまえば、誰もが日菜を選んでしまう。 私は、……私は、誰にも必要とされていない。 誰にも。 [newpage] 「お姉ちゃんっ……!」 は、と目を覚ます。 全身にびっしょりと汗の感覚。 そして、濡れた頬に、ぽたりと水滴の垂れる感覚に、暗い目の前。 日菜が、私を覗き込んで、泣いている。 「お姉ちゃん……、っ……」 「……あ、……」 声を出そうとすると、喉がすごく掠れていた。 何か言っていた気もする。 けれど、思い出せない。 がんがんと大きな音が鳴り響いて、日菜の顔がぐるぐると回り始める。 よかった……お姉ちゃん、魘されてたよ、という日菜の遠い声。 何か言おうと思ったけど、何も言えなくて、私は「ごめん」とだけ呟いて目を閉じた。 けれど、寝たいとは思わなかった。 寝たらきっと、とても怖い思いをする。 この異常なくらいの心細さの原因になった悪夢が、また私を襲う。 何かを言おうとした。 何か、大変なことを。 けど私は、それを飲み込んで、代わりに掠れた声で言った。 しぃん、と部屋の静寂が聞こえて、一緒にがんがんと音が鳴り響く、妙な心地。 私は必要とされていない。 どこからかそんな声がした。 お母さんが、後ろにいた。 けど何も言ってくれない。 私は必要とされていない。 要らない。 そんな言葉だけが、ひたすら頭の中をぐるぐると回り始める。 息が詰まって、鼓動が早くなった。 たった今、私は悪夢に魘されていたのだ。 ふらつきながら彼女に凭れ掛かり、私はみず、と呟いた。 「大丈夫、自分で飲める?」 「っ、」 自分で。 心臓がぎゅ、と縮まる感覚。 「大丈夫よ……」 コップを貰って、震える手で受け取った。 絶対に、絶対に落としてやるものか。 ぎりぎりと力を篭めて、口元へ運んだ。 水を飲むと、少し、意識がはっきりとした。 目眩が少し収まった代わりに、頭がずきずきと痛んで、私は空のコップを布団の上に落とした。 「お姉ちゃん!?」 「……」 あたま、いたい。 それだけ呟くのが精一杯だった。 またも駆け出そうとする日菜。 いなくなるっ……。 急に怖くなって、彼女の裾を掴んだ。 全く力の入らない声で、どうにか、それだけを言った。 日菜のしゃがみ込む気配がした。 「……うん」 そっと、手を取られる。 「…………」 日菜が手を握ってくれてる。 「大丈夫だよ、」 お姉ちゃん、という言葉に、心がす、と安らかになる。 私はまたも落ちていきながら、今度はその先が、お日様に綿を透かしたように、温かくて、ふんわりしているのを感じていた。 [newpage] お姉ちゃん。 お姉ちゃん。 お姉ちゃん。 柔らかな日菜の声に、太陽が輝いている。 私は温かい心地に包まれながら、けれど、それに飲まれてしまいたくない、と少しだけ感じていた。 けれど、どれだけ抗っても……心の一部だけが、どれだけ嫌がっても、私の芯はあの子に掴まれてしまっていた。 お姉ちゃん。 弾むような声に。 お姉ちゃん。 伺うような声に。 お姉ちゃん。 縋るような声に。 私の欲しかったものを、見出して。 日菜は。 日菜だけは、私を必要としてくれる。 日菜が、私の全部を取ってしまうのに。 日菜の言葉で、私は安心してしまう。 私は、ここにいても良いんだと。 彼女の傍が、私の居場所になるんだと。 抗えないと分かっていても。 敵わないと知っていても。 お姉ちゃん、と私を呼ぶ声に。 その声に心を預けてしまったら、私は、今度こそ、私でいられなくなる。 私の何もかもが、あの子に取られてしまう。 そう、ならなければいいのに。 抗わなくてもいいなら。 あの子に、全てを預けてしまっても良いのなら。 これほど、幸せなことも無いのに。 あの子が私を必要としているように。 私もまた、……。 私が、私だけの居場所を、私を必要としてくれる場所を、見つけたなら。 日菜を突き放さなくても、日菜に負けても、私が良いって言ってくれる、そんな居場所があったなら。 私はきっと、その時こそ、日菜と向き合えるだろう。 それはきっと、もうすぐだ。 起きたら私は忘れてしまっているだろう。 けれど、私には日菜が必要で、私は段々とそれに気付きつつある。 私には、Roseliaがある。 感じている。 Roseliaの皆は、私を必要としてくれる。 あの場所は、日菜のものじゃない、私だけの場所。 だから、きっと、あと少し。 一緒に住んでも良いと言ったのは、その証。 後は私だけ。 私が、日菜に負けてしまう私を、愛せるようになったら。 私はその時こそ、日菜を、愛してあげられる。 そうしたら、きっと、日菜だって。 [newpage] 「…………」 ぼんやりと目を覚ます。 嘘のように頭が軽い。 肌寒い空気に、すぐ傍らの熱源。 見慣れた髪に、嗅ぎがいの無い匂い。 夜中、隣に居てくれたらしかった。 布団も被らずに、日菜は私の隣で横になって、手は繋いだままで。 本当に。 彼女の体にも布団を被せ、そっと距離を寄せて。 起こしてしまわないように。 心に満ちた温かい気持ちを、伝えるように。 彼女を一度だけ、抱き締めた。 いつか私が私を愛せた時。 そうしたら、今度は、声にして。 ありがとう、日菜。

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